大分県日田市の南部に位置する「大山町」。山々に囲まれた自然豊かなこの町は、
大分大山町農業協同組合(以下、「大山町農協」と記載)がいち早く着手した農産物の生産、加工、そして流通・販売までを手掛ける「6次産業化」のモデルとして全国で有名になりました。また、近年では世界中で大人気の漫画『進撃の巨人』の作者、諫山創(いさやまはじめ)先生の出身地としても知られ、聖地巡礼で訪れるファンの方も多いそうです。そして我々にとっては、麹スピリッツ「TUMUGI」の香味を担うボタニカルの一種として欠かせない素材の生産地でもあります。その素材とはスペアミント(以下、「ミント」とは「スペアミント」のことを指します)。「TUMUGI」に使用するミントは全て大山町産なのです。ではなぜ大山町のミントを使用するのでしょうか。シリーズ連載の第二話は、そのミントの秘密を探るべく「大分大山町農業協同組合ハーブ部会」矢幡部会長に話をお伺いしました。大分大山町農協様の取り組みも合わせてご紹介したいと思います。
■全ては「土」から―― 本日はよろしくお願い致します。まずは大山町でミント栽培をはじめたきっかけを教えていただけないでしょうか。矢幡 大山町は山に囲まれて傾斜が多く、耕地面積が小さい町なのです。大規模な畑作や米作にむかないことから、そのような土地でも生産できるものとして果樹栽培、キノコ栽培に続き、ミントを含むハーブ栽培が始まりました。日田市は盆地のため一日の気温差が激しいのですが、実はそれが栽培に適しているのです。この気温差を利用して、様々な品種を栽培していました。しかし、近年は気温上昇が著しく、夜の気温が下がらず、一日の気温差がなくなってきました。それもあって、朝晩の温度が少しでも低い標高のある場所にお住いの方に栽培をして頂くなど工夫をしています。
―― 大山町のミントの特徴は「一日の気温差」が大きな要因なのですね?いえ、それだけではありません。一番の特徴は「土」なんです。
―― 土耕栽培ということでしょうか?巷で販売されているミント栽培のキットは水耕栽培用なので、てっきりミントは水耕栽培で育てるものだと思っていました。 もちろん水耕でも栽培は可能ですが、土耕の方が「色」・「香り」の良いミントが出来ます。もちろんそれなりの手間が掛かりますけど。ミントは特に香りが鮮烈なので、比べるとよく分かりますよ。
あと、私が「土耕栽培」ではなく「土」と答えたのは、使用している「土の質」も香味を左右する大きな特徴だということも伝えたかったのです。大山町の農業は「土づくり」から始めているのです。
―― 「土づくり」からですか!? 大山町農協は「健康な農産物は、健康な土づくりから」という信念の元、40年以上前から「土づくり」をしてきました。大山の土づくりは、キノコ栽培に使ったオガクズを発酵させて独自の堆肥を使用したものです。この「健康な土」を使って土耕栽培をすることがとても大事なのです。
―― 「土づくり」から農作物の生産までが一体となっているのですね。そしてその土は大山町のキノコ栽培に使ったオガクズを再利用している。正に循環型農業ですね。 更に大山町農協には農作物や加工品を販売する直営店も持っています。
直営店の『木の花ガルテン』はそれらを提供するレストランも経営しているので、新鮮な素材を活かした料理を楽しむことができますよ。
―― 加工、販売、レストランも手掛けているのですね。それが集客にも繋がり、雇用が増えて所得も上がる。勉強させて頂くことがたくさんある仕組みです。 
【大山町の土とミント】
■主婦・子育てしながら出来る農業
ミント…というかハーブ栽培全体の話になりますが、農業の中では特に女性に向いているものだと思います。
―― それはどういった理由からでしょうか?
ハーブは他の農作物に比べて「軽量」だからです。野菜や果物は収穫すると相当な重量になるので機械や人手が必要ですが、ハーブは栽培が軽労働なので女性一人でも作業することが出来ます。また、収穫・出荷を調整するなど、段取りさえしっかり組めば、自由な時間をつくり出すことも出来ますよ。私はハーブ農家歴25年になりますが、子どもの行事は全て参加しました。
―― なるほど!私は「農業」を一括りに考えていましたが、扱う作物によって作業負荷が全然違いますね。そして、仕事をしながら家庭のこともこなすのは本当にすごいことだと思います。
因みに畑の場所も近いので、出勤時間も短いです(笑)。また、ハーブ部会には80歳を過ぎてもまだ現役で仕事をされている方もたくさんいらっしゃいます。年を重ねても続けられるのがハーブ農家です。私もまだまだ頑張らないとですね。
■「TUMUGI」との繋がり
―― 「TUMUGI」との出会いについて教えていただけますか。
3~4月に収穫したミントは香りも良く、出荷も最盛期を迎えます。しかし、市場でも受け入れられないほどの量になることもあり、せっかく一番良い状態のミントなのに使っていただけないのは勿体ないなと思うことがありました。そしてもう8年も前になりますが、三和酒類さんから農協に「イベントでのカクテル用にミントがほしい」との連絡があったそうです。これが三和酒類さんとのご縁の始まりですね。
―― 「TUMUGI」の開発担当者である岡本さんに伺ったところ、大山町のミントは香りが抜群で、プロのバーテンダーの方々も感動していたとのことでした。そして、車にミントを積んで帰るとき、車内がミントの香りで充満するほど鮮烈だったそうです(笑) ありがとうございます(笑)。あと、三和酒類さんと大山町が同じ県内で距離が比較的近かったことも良かったですね。「葉もの」は傷みやすいので、収穫から時間が経つと新鮮さが損なわれます。その点、お互いが仕込みと収穫のタイミングを合わせれば、新鮮な状態でお届けして仕込むことが出来ます。いつも大山町まで取りに来て頂けるので、市場に並ぶよりも早くお渡し出来ていますよ(笑)。

【「TUMUGI」の仕込みタンクに漬け込んだ大山町のミント】
■生活の中にハーブを
―― 最後に読者の皆様に向けてメッセージを頂けますか。
ハーブはまだ日本の生活に浸透していないと感じています。もっと気軽に使って頂けるようになればいいなと思っています。今、ミント以外にもタイムやローズマリーも栽培していますが、タイムは魚のホイル焼きに、ローズマリーは肉料理に少し添えて頂けると、料理が一層引き立ちますよ。
また、ミントは鉢に植えて観賞用にテーブルに飾っておくだけでも良いですよ。部屋中にソフトな清涼感ある香りが広がり、とても癒されます。夫婦喧嘩していても、その香りの効果ですぐに終わると思います(笑)。もっと皆様にハーブを生活の中に取り入れて楽しんで頂けると嬉しいですね。
―― 本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。大山町ミントの秘密から大山町農協の取り組みまで教えていただき、大変勉強になりました。これからの大山町農協の更なる飛躍と矢幡様のご活躍を心よりお祈り申し上げます!

【「TUMUGI」の仕込み見学にて。右から二番目が矢幡様】